「ホテルローヤル」桜木紫乃
2014年 04月 30日性愛というものは、成熟した大人であればしごく真っ当であるはずなのに、当事者の男女ふたりだけの秘密であり、たとえば明るい朝の食卓なんかにはそぐわない。
読者はそんな秘密を盗み見ているような、そんな感覚になるかもしれない。
「星をみていた」の主人公の女は一般的な尺度からみれば、不幸である。働かない、やくざになって事件を起こした息子、仕事はラブホテルの清掃で仕事帰りの暗く寒い夜道をお下がりのジャケット、軍手という出で立ちで頼みの懐中電灯が壊れて、まっくらやみのなか転んでしまうという展開。
「誰も恨まずに生きてけや」という母親の言葉を支えに前向きに生きてきた彼女が、自分が精神的にもぎりぎりのところで生きているということに気づいたのではないだろうか。
そのまま動けずにいたのは、もしかしたらこのまま朝までこうしていれば辛い(ということに気づいてしまった)人生とさよならできるかもしれない、と思ったのかもしれない。
けれど夫が迎えにくる。何してたんだと問われて、彼女は「星をみていた」と答える。
人生の哀しさと同時に美しさを感じるラストシーンがいい。
「ギフト」の中で義父がこう言う。
「幸せなんて過去形で語ってナンボのものじゃないの」
その言葉の前では「幸せにします」の言葉は虚ろだ。
生きていくということはひとくくりに幸せだとか不幸だとか、語れない。
けれど刹那、生きていてよかったと感じられたら、幸せなのかもしれない。
一文がとても簡潔で読みやすい。ほのぐらいリアリティのある物語だった。
2014.4.29.読了。
by soranosanngo
| 2014-04-30 12:38
| 読書ノート
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