カテゴリ:尖塔のYURIKAGO(戯曲)( 1 )

尖塔のYURIKAGO

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STAR DUST素材館さまhttp://lunar.littlestar.jp/stardust/index.htmlよりいただいた画像です

≪登場人物≫
 マダム(中年女)
 ルカ(少年)
 ホワイトスノウ夫妻(金持ちで上品そうな身なり)
 若い女
 赤ん坊(声のみ)

≪第一幕≫

※舞台はうす暗い。下手に石を積んだ壁。壁には横1m縦30cmっほどの上下閉開式の木の扉が一つ付いている。
※扉の上には「YURIKAGO」の文字。

「ザザーザザー」(波の音)

※上手から若い女が歩いてくる。顔を隠すように頭からすっぽり白い面紗(ヴェール)で包まれている。両腕にはおくるみにしっかりと巻かれた赤子を抱いている。

※木の扉の前に来ると、おもむろに扉を引き上げ、赤子をその中に入れて、扉を閉める。
そしてそのまま二、三歩あとずさると、一瞬間を置いてから、背をむけ、元来た道を走って帰る。

※暗転


≪第二幕≫
※塔の内部。

※中央に螺旋階段がある。上手に4人掛けのテーブルセット。中年の女(マダム)がひとり座ってソロバンをはじいている。下手にベビーベッドが5つ並んでいる。少年が舞台中央よりのベッドに赤ん坊を寝かせているところ。

マダム:あたしは、この尖塔のYURIKAGOの女主人。生業は、赤子斡旋業さ。元手はタダのぼろもうけ。

ルカ:また、そんなことおっしゃって。人権擁護団体からクレームがきますよ。

マダム:何言ってんのさ。捨てられた命を欲しいとおっしゃる人にお譲りする、感謝されこそすれ、クレームを言われる筋合いじゃないよ

ルカ:でもねえ、この間も、この塔に取り付けられているゆりかごが捨て子を助長するんじゃないか、いったいモラルはどうなっているんだって、電話があったんです。

マダム:へっモラルだって? そんなものがもう通用する世の中でないってこと、わかってないのかね。ここまで捨てに来る母親はまだいいほうだと思わなくちゃ。子供を殺してしまう母親よりかはね。ルカ、おまえだってそう思うだろう。おまえだって、このYURIKAGOに捨てられていたんだからさ。

ルカ:そうですね、たぶん、いや、きっと。ぼくは幸せだったでしょうね。マダムに育ててもらって、感謝してます。

※ルカ、深々とお辞儀する。

マダム:面とむかって言われると照れるじゃないか。ほんとはね、あんたを引き取って育てたいって人が現れなかっただけなんだよ。

ルカ:それはそうでしょう。何をすき好んで小指がない赤ん坊を育てたいって奇特な人がいるでしょう。

マダム:ひがんでんのかい?売れ残ったから

ルカ:いいえ、ちっとも。

マダム:じゃあ、なんでいつも手袋してるのさ

ルカ:五本の指がそろってるマダムには言ってもわからないことです

マダム:やっぱり、ひがんでんじゃないか。

ルカ:ひがんでないですってば。

マダム:ひがんでる!

ルカ:ひがんでません!

マダム:ひがんでる!

ルカ:ひがんでません!

マダム:ひがんでません!

ルカ:ひがんでます!あっ

マダム:あはははは。まだまだ修行が足りないね、おまえは。

※突然、赤ん坊が泣き出す。


マダム:おむつじゃないのか

ルカ:はいはい、今行きまちゅよ。

※手際よくおむつを変えるルカ。

マダム:ある意味ここに来るのは命がけなんだ。この塔が立っている島の周りは渦が激しく舟は使えない。干潮時、海が割れ、現れた一本の道を徒歩で来るしかないのさ。

ルカ:もたもたしていたら、すぐ潮が満ちて波に飲まれますしね。

マダム:この塔にYURIKAGOがなかったころ、ここはただの教会だったのさ。そのときにも、ここへ来る殉教者が大勢死んだそうだ。

※マダム、またソロバンの玉をはじきだす。パチパチと音が響く。

マダム:あんたがいてくれてほんとに良かったよ。あたし一人じゃ手が回らない。この塔の維持費だって、ばかにならないんだから。

ルカ:育ててもらったせめても御恩返しです。

マダム:いつまでもここにいてあたしを手伝っておくれね。

ルカ:いつまでも、というのはお約束はできかねます

マダム:どうしてさ、ここにいれば、食べていくには困らないのに。この世知辛いご時世に小指のない、学のない、ないないづくしのあんたを誰が雇ってくれるというんだ。

※マダム、煙草に火をつけ、ふーと息をはく。

ルカ:マダム、そろそろ今日里親面談の方が見えます。名前はホワイトスノウ夫妻とおっしゃいます。

マダム:そうだったね。お見えになったら、こちらにお通ししておくれ。

※暗転



※テーブルに上品な身なりのホワイトスノウ夫妻が並んで座っている。その向かいにマダムとルカ。

「ホホホホ」(笑い声)

※なごやかに談笑が進んでいる様子。

マダム:お話はよくわかりました。お子様がお出来にならないので、実子として赤ん坊を一人欲しいということですね。

ホワイトスノウ夫:はい。どうぞよろしくお願いします。

ホワイトスノウ妻:実の子としてきっとかわいがりますから。

マダム:わかりました。面談の結果は追ってお知らせいたします。さ、どうぞ。

マダム、ホワイトスノウ夫のコートを手にし、背中にかけるやる。

ルカ:そろそろおかえりにならないと。

マダム:今日はこんな不便なところまでお越しいただきまして、ありがとうございました。

ホワイトスノウ妻:一日に一度干潮の時にだけ現れる道を通ることでしかこの塔にはこれませんのね。ロマンチックですわ。

マダム:古くは巡礼の道、と呼ばれておりました。さ、早くなさって。潮が満ちてきたら、波に飲まれて帰れなくなりますわ。

※ホワイトスノウ夫妻、帰っていく。


マダム:ルカ、塩持ってきな。

ルカ:塩ですか?(けげんな顔)……はい、どうぞ。

※マダム、塩の入ったつぼを受け取り今しがた閉じられた扉に向かって塩を撒く。

ルカ:いい人そうでしたね。合格ですか?

マダム:ばか! お前の鼻は飾り物か。あの夫妻からは血の臭いがぷんぷんした。デビルの手先だね、あれは。

ルカ:えっ。二人とも優しそうな顔をしていたのに。

マダム:まだまだ社会勉強が足りないね。まあ、こんな狭い世界しか知らないから、無理もないか。悪人ほど善人の仮面が似合うもんなんだよ。これが証拠さ。

マダム、ポケットから何かを取り出し、それをルカに渡す。

ルカ:ひえっ。こ、これって。

マダム:人の小指みたいだねえ。さっきホワイトスノウの夫のコートのポケットに入っていたのさ。ルカ、おまえにあげるよ。

ルカ:一本だけですか? 二本あったら完璧だったのに。

マダム:贅沢いうんじゃないよ。片手だけだってこれで五本指がそろうじゃないか。

ルカ、右手の手袋を脱いでその小指をつけてみる

ルカ:この小指、ぴったりだ。嬉しいです。小指があれば……。

マダム:小指があれば?

ルカ:指きりげんまん出来る! 夢だったんです。

マダム:はあ? 指きりげんまんだって? そんなの薬指だってできるんじゃないのか。

ルカ:いいえ! 薬指じゃいけません。指きりげんまんは小指じゃなきゃ。断固として!

マダム:ああ、もうわかったよ。好きにしたらいいよ。変なところ、頑固なんだから。あいつら、ホワイトスノウ、じゃなくてとんだブラックスノウだったね。

ルカ:じゃあ、不合格ですね。

マダム:当たり前じゃないか。こんなにかわいい赤子を臓器売買の道具になんかさせないよ。


※マダム、ベビーベッドに歩み寄り、赤子を抱き上げ頬ずりする。とたんに赤ん坊は火の付いたように泣き出す。

ルカ:何やってるんですか。相変わらず抱き方が下手なんだから。ちょっとかしてください。

※ルカが赤ん坊を抱くと泣き声が止む。

マダム:やれやれ、ソロバンはじくのは得意なんだけどねえ。ルカ、あんたは赤子の扱いはピカいちだねえ。コツを教えておくれよ。

ルカ:コツなんか別にありませんよ。

マダム:それじゃ、あたしが困るんだよ。あんたがいなくなったら、世話するのはあたしなんだから。

ルカ:いなくなったら、って?

マダム:外の世界を見てみたいんだろう。だったら行ってくるといい。でもね、ここが恋しくなったら、いつでも帰ってくるんだよ、ルカ。ほれ、指貸しな。

※指きりをする二人。

ルカ:初めての指きりの相手がマダムとは。

マダム:なんか文句あるっての?

ルカ:光栄でございます。


マダム:ところでその新入りの赤子の額、よく見てごらん。

ルカ:額ですか? うん? 何やら真ん中がまあるく盛り上がってますね。

マダム:それは眼だよ。まだ開いてないけどさ。その子はみっつの眼を持つ子さ。

ルカ:ひとつ多いですね。

マダム:少ないより、いくらかましだろう。

ルカ:そうでしょうか。

マダム:やっぱりひがんでる。

ルカ:しつこいですね。ひがんでないです。

マダム:また売れ残ったら、あんたの後釜にするとしよう。

ルカ:みっつめの瞳が開く時、果たしてそこに何を映すのでしょうね。

マダム:さあね。今より多少良くなっている世の中だといいけど。

ルカ:祈りましょう。

マダム:あたしはいつも祈ってるさ。祈るたんびにこの塔のてっぺんにある細いアンテナが伸びていく。天に届くには、まだまだだがね。

※暗転

※稲光が一筋、光る。ちょっと遅れて雷の音が響く。

   完
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by soranosanngo | 2011-10-04 13:29 | 尖塔のYURIKAGO(戯曲) | Comments(4)