カテゴリ:詩( 20 )

詩「冬めく」

ひとすくいの水をすくう

私という器の
ゆるされている湖面に
ふたたび冬がおとづれようとしているから

てのひらの
生命線も冬めいて

息も
言葉のひとつのかたち
吹きかけてみれば
ほのかに
ゆらぎ
さざ波が立つ
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by soranosanngo | 2016-11-05 12:08 | | Comments(0)

詩「露草」

アスファルトの亀裂の
わずかな土に咲く
露草を見つけた

排気ガスにまみれても
何も誰にも
損なわれない
濃い青色をして

もしも
この手で摘んだなら
たちまち
青は色あせて
死んでしまうことでしょう

おかえり
ただいま
特別ではない日常で
特別でもない挨拶を交わせば

秋の空はぼんやりと
悲しみを千倍薄めたような
あれも青
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by soranosanngo | 2016-10-20 14:56 | | Comments(0)

詩「白い夜」

夜の粒子は
空気より重いから
地に近いところから
夜は降り積もる

揺れるブランコの下
濃くなるばかりの影

うすいヴェールを
かけられたような
時間を
白い夜と呼んで
愛していた
一番星に見つかる前の
それは刹那の時間だったけれど
今となっては
永遠という時間に置き換わっている

夜の粒子は
柔らかいから
さなぎになるのに
ちょうどいい
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by soranosanngo | 2016-10-01 09:52 | | Comments(0)

半月の照らす路

曲がり角で
まるでわたしを待っていたかのように
飛び出した
黒猫

ブレーキ

轢かなくてよかった

心臓の音が近い

命をかけても
渡りたかった
そのわけは
なんだろう

黒猫にしたら
そんな悲愴な決意など
はなからなくて
まして
大切な約束など
だれともしていないのだろう

わたしはどのくらい渡ってきただろう

半月の照らすほのくらいこの路を
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by soranosanngo | 2015-10-23 09:17 | | Comments(0)

 それまで
 水の中を泳いでいたものが
 産院のベッドの上で
 あし。になる
 それはまだ
 自分を支えることも
 出来ないけれど
 あし。と呼ばれる

 ああ、これは
 あし。だね
 
 こんなに
 ちいさく
 まだせかいをあるいてさえないものを
 あし。と呼ぶと
 せかいを歩いている人は
 みな
 幸せな気持ちになる

あかちゃんの存在はそれだけであたたかいもの。
大きくなれば誰かにこんなふうに足のうらまでしみじみみられることもないなあと。
そんなふうに慈しまれながら、いつかひとりで歩いていくだろう、
そんな人の出発点を
一枚の写真で思い起こされた。
赤ちゃんのあしは自分を支えることは出来ないけれど、
もしかしたら周りの人を支えるものかもしれない。
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by soranosanngo | 2015-10-09 08:33 | | Comments(0)

7月のまひる

青空のない
空の下
出来る影は
どこかうすく
どこか心もとなく

こどもみたいに
スキップしても
ちっともさまにならなくて
そう、地と共鳴していないかんじ
さみしいって言葉を知ってしまったから
もうそこへは帰れないんだ
白い運動靴でも

いつのまにわたし
大人になったのだろうか
いつのまにあなたも
大人になったのだろうか

境界線に咲く
ヒメジョオンの群生が
ささやかに揺れながら
わたしたちを見ている


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by soranosanngo | 2015-07-03 15:30 | | Comments(0)

春という字

手近な男とくっついちゃって
あたしもヤキがまわったかなあと
それが照れ隠しなのは
彼女の顔を見たらわかる

手近な言葉
ありふれた言葉
黒板消しで拭くたびに
私の屋根に白いチョークの粉 降り積む
そもそも誰も使ったことのない
未知の言葉なんか
ないのであれば
新しい言葉を探すことなど
徒労に思えてくる

知っているはずの言葉が
突然
知らない顔をして
UFOから降り立つように
現れたなら
はっとして
それから恋して
手近な言葉とくっついちゃって

私も笑ってみせたい

春という字のなかに
とても穏やかな一日がある
どこにでもあるような
ここにしかないような
ささやかな幸せのような
そんな一日が
とても身近に
花屋の店先で揺れていた

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※詩人サークル「群青」3月の課題「春」への提出作品
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by soranosanngo | 2014-03-06 09:12 | | Comments(0)

紫の華

左腕に
浮き出た内出血の痣
八年前に受けた
ハーセプチンの点滴は
あたしの血管までもぼろぼろにして
以来
採血は
看護婦泣かせの儀式となった
その痕を
老いた母は
かわいそうにと
いくども撫でた

  おかあさん、あたし がんばったでしょう

母の呉れた
憐れみは
小春日和みたいに
心地よくて
醜く咲いたこの華を
がむしゃらに咲いたこの華を
一週間もすれば散るこの華を
うっかり
愛してしまいそうになる


※「詩サークル 群青」2014年2月のお題「紫」への提出作品

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by soranosanngo | 2014-02-28 10:04 | | Comments(0)

ミセス M

昨晩
ひとつの恋を失った
ミセス ミスティは
男の不実を責めるでもなく
ピアノの蓋を閉めた

ミとファ
シとドの間に
黒鍵がない理由は
おそらく
その間に
幻想があるからだと
彼女は言う

泣いてなんかいないわ

翌朝
彼女の霧で満たされた旧市街の
あちらこちらに
注意深くこしらえた
さりげなさをまとって
甘い黒鍵が落ちていたが
  
 夫婦の幻想、春の幻想、指輪の幻想、若さの幻想……

言い換えれば
おとぎばなしのたぐい
旅人が出立する頃には
ゆるみ
それらはみな
野良猫が食べてしまっていたので
現実という石畳だけが
おひさまに照らされていた

とてもすがすがしく


まったくこの街の猫ときたら そりゃあもうまるまると太っているのよ



※詩人サークル「群青」2014年1月のお題「霧」への提出作品
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by soranosanngo | 2014-02-05 20:12 | | Comments(5)

プロペラから
風が生まれる
その中心を
つかんで
風を止められるかどうか
幼いきょうだいが
度胸だめしをしている

首振りボタンで
風を分けあって
風を共有していた
ちりん
南部鉄の風鈴を
通りすがりの風がふれていく

墓を買おうと思うの
海が見える素敵なところよ
母からの電話のむこうで
凪いでいる海を感じた

母の父親は
そんな遠いところへ
わざわざ嫁ぐことはないといって
結婚に最後まで反対だったという
ひっこみがつかなくて
結婚式も欠席だったのと
母は笑う
今では新幹線で最寄りの駅までつながっているし
現実の距離は
線路沿いにたどってゆききできる
祖父は
もうおいそれとはいけない
一歩通行の
(行くことはできるけれど帰ってくることはできない)
遠いところへ行ってしまったけれど

時々貨物列車で実家へ荷物を送るために
小荷物をかかえ
駅まで母と出かけた
クロネコヤマトはまだなかった時代
小さな私は木のカウンター越しに
爪先立って
箱が積まれている様子を見ていた
母のおくりものも
手を離れれば
たくさんの積み木のひとつになっていくのを

海のない母の故郷の夏は
うんと暑かったという
冬はからっ風がふきあげるくせに
夏には風がどこかへいってしまうと
海のない街にも凪があったという

   なにもかも
   ときがとまったようにうごかなくなる
   そんなじかんが
   だれにもおとずれる

麻紐でくくられた荷物には
宛先を記したかすれた茶色の荷物札が
銀色の細い針金で
ていねいにとめられ
ほんの小さな風にさえ
くるくるまわっていた

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by soranosanngo | 2013-07-22 17:24 | | Comments(0)