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140字の小さな物語

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☆ひきこもり
私がいるのは、自ら吐いた柔らかな絹糸で紡いだ丸い世界の中。
薄闇は平安を呼び、孤独は瞑想をくれる。
ひきこもりになるのも悪くない。
そしていつしか私は生まれ変わり、
ついに繭(まゆ)を破るだろう。
狭き門より出でて、恋をするために!

☆がらくた 
朝からハズバンドが怒っている。
おまえはおれの大切なものを
なぜ、断りもなく捨ててしまうのかって…。
だって私にとっては、ただの「がらくた」ですもの。
そもそも大切なものを顧みないのは、あなたのほうでしょ。
愛が「がらくた」になったら、もう捨てるしかないようね。
私はリボルバーの引き金を引いた。

☆お気に入りの毛布
残されたものは、かなり年季の入った青い歯ブラシが一本だけ。
失恋のオブジェにしては、これ以上ないくらいにわびしいわ。
風邪をひいたのは、心が寒くなったからって?
いいえ、単にお気に入りの毛布を失くしたからよ。
恋を失くしたんじゃない、毛布を失くしてしまっただけ。

☆ソルト&シュガー
あなたの目玉焼きには塩を多めに。コーヒーには砂糖たっぷり。
あなたを濃い味党にするために十年かかったわ。
私は昨日届いた郵便をびりびりに裂いてゴミ箱へ捨てる。
そこには【要再検査】というあなたの健康診断の結果が記されている。
ソルト&シュガーは静かなる毒薬。「あなた、ごはんよ」

☆画家の妻
日本画家にとって岩絵の具は大切なものだ。
妻の唇は珊瑚の赤色。
胸元が大きく開いたバロック調ドレスはラピスラズリの瑠璃色。
これは巴里で買い求めたものだった。
妻が死出の旅に出かけてから半世紀。
今でも面影は鮮やかにここに存在する。
いや岩絵の具は時を経てますます輝きを増すのだ。
カンバスの中では君は色褪せない

☆鐘楼の鐘が聴こえる
ヴェネチア、サンマルコ広場の鐘楼の鐘が鳴る時、
鳩が一斉に飛び立つ。
カフェのボーイが積み上げられてあった椅子を並べ出す。
「ここのエスプレッソはゲーテも飲んだのよ」
あの日君はそう言って微笑みをくれたっけ。
君の面影を捨てに来たのに、皮肉だね、拾ってばかりだ。
もう一度やり直せるだろうか。
聴力を失った僕の耳に聴こえる……リ・スタートの鐘。
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☆アパルトマンにて
「私の作るシャネルスーツのこと、寸足らずのできそこない!ってこけ下ろすの。フランスモード界の石頭!時代遅れ!」
新参者に逆風が吹くのは世の常。
「ココ、そんな奴らのこと気にすることないよ。だって君はモード界の新女王になるんだから」
「アラン、あなたは偉大な預言者?」
「いや、21世紀からやってきた、ただのジゴロさ」

☆散歩
犬を連れた人々が行きかう日曜日の公園。
「こんにちは、最近景気はどう?」
「うちの主人なんてボーナス、カットよ。美容院だってなかなか行けなくなっちゃたわ」
「お互い、健康だけには気をつけなくちゃ。病気になったら医者にもかかれないかも」
「そうね、頑張って歩きましょう。人間の散歩も楽じゃないけどね、ワン」

☆かりそめの恋
月のぶらんこをこぎながら、今宵の逢瀬に想いを馳せる。
無伴奏チェロの響は、かりそめの恋を奏で、
ヴィオロンのささやきが涙を誘う。
貴男はきっとこう告げる。
「もう終わりにしよう」
うなずく私。
世界は永遠に闇に閉ざされる。
私は夜を司る女神。
貴男を太陽になんて渡さないわ。

☆ローズマリー
今晩のメニュウは鶏肉のオーブン焼き。
オリーブオイルとローズマリーに漬け込むのが
妻のレシピだった。
妻の遺した庭のローズマリーはもうこんなに大きくなった。
まだ高校生だった娘も明日は嫁にいく。
ローズマリーの株分けをして、もたせることにしよう。
「君に似て、いい男を捕まえたよ」

☆影
黒ミサに参加ご希望とか?
不幸に落としいれたい人がいらっしゃるのですね。
わかりました。
あなたの憎しみが本物ならば思い通りの呪いがかかるでしょう。
けれどお忘れにならないでね。
悪魔に魂を売るということはご自分の影を失くすということ。
満月の夜はもう外をお歩きにならないほうがよろしいわ。

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☆愛に捧ぐ
君のその冷たい瞳に見つめられ、僕は一瞬で恋に落ちた。
鮮やかな緑のドレスに身を包んだ美しい人よ。
結婚は恋愛の墓場っていうけど、本当だったんだね。
でも僕は君を愛したことを後悔なんてしない。
喜んで君に食べられよう。
それが、かまきりの男の運命ならば。

☆旅人
長い坂道を大きな荷物を背負った旅人がひとり。
汗がしたたり落ち、足は重くなるばかり。
けれどここで休んだら二度と歩けなくなるかもしれない。
その時だった。
ふっと風が背中を押した。
君…なんだね。
愛しい人の笑顔を思い出す。ひとりだけれど孤独じゃない。
そして次の一歩を踏み出した。

☆きゅうくつ
こたつの中でひしめく兄弟の8本の脚。
蹴った、蹴らない、のくだらない喧嘩の絶えない狭い空間がわずらわしかった、あの頃は。
今、私は一人暮らし。
こたつを独り占め。
静かな自由を手に入れた。
嫌いだったあの冬の夜が懐かしいのはなぜ?
「きゅうくつ」ってあったかかったんだ。

☆抱擁
戦うためにその刃を研ぎ澄まし、
強さの証拠を振りかざし、生きてきた俺。
しかし愛を知ってしまった今、そんなものに何の意味があるの
だろうか。
この肥大化した蟹のはさみで、君を抱けばきっと傷つける。
そんな不器用な愛を、君は受け入れてくれるだろうか。

☆霧
「待て」どこからともなく声がした。
山道に迷い、霧の中を闇雲に彷徨ってきたが、我にかえり立ち止る。
足元の熊笹がざわめく。
すると霧が何かに追い立てられるように晴れていく。
自分が立っていたところは…崖っぷちだったことに漸く気づいた。

☆贈り物
ぼくのおばあちゃんは病気でいつも寝ています。
時々目を開けて「庭の梅は咲いたか」と聞くんだけど、まだ蕾は開きそうにありません。
おばあちゃんに花を見せてあげたいなあ。
梅の木の下でぼくはうぐいす笛を吹きました。
昔おばあちゃんに買ってもらった笛です。
「ホーホケキョ」

☆ ラッキー?
ヤッホー!
珍しく今日は赤信号に引っかからないで職場に着いた。
道も空いてたし、なんてラッキーなんだ。
と、思ったら今日は日曜日だということに気づいた。
ああ、なんてアンラッキーなんだ。
それとも、やっぱりラッキーか??

☆携帯電話
携帯電話は確かに便利だ。
日本では小学生にGPS機能付きのそれを持たせることが、いざという時、役に立つと言われ、普及しているらしい。
いざというとき…もう俺の出番じゃないということか。
それに、公衆電話のボックスが激減してる。
これじゃ、変身できない。
時代の波の中にスーパーマンは消えていくのだろうか。

☆おそろい
私の名前はチェ。
私はリー。
私達双子の姉妹です。
みんなからチェリーって呼ばれてる。
一卵性だからそっくりよ。
靴も服もおそろい。
実はね、ここだけの話、彼氏もおそろい。
私達がまさか双子だなんて気づいてないでしょうねえ。
彼はアップルっていうの。
-僕の名前はアップ。僕はル。双子さ。
おそろいが好きなんだ―

☆島
点々と浮かぶ島影。かつての繁栄は去り、行きかう船もなし。
無常の風が吹きすさび、大地は荒れ果て、沈みゆくのも、もう時間の問題だった。
そこへ救世主が現れた。
よその国から島ごと移植するという大工事が行われ、そして見事成功。
ありがとう。
私のランゲルハンス島は新しくよみがえった。

☆アンテナ
春はもうそろそろかなあ。
ボクはおそるおそるアンテナを伸ばす。 
この間は雪が降ってて、風邪ひきそうになっちゃった。
時々、季節のいたずらにびっくりする。  
今日は暖かいから、もう一ミリ、アンテナを伸ばそうかな?  
ボクはちゅうりっぷの芽。
緑のアンテナ。


☆時のふるい
悲しみは時のふるいにかけられて、その粒子を小さくする。
こんぺいとうのような尖った角もいつしか丸くなり、思い出の海へと流れていく。
ふるいに残ったのは、希望だろうか。
時々私はふるいをゆする。
残った希望の音を聴くために。

☆いつだって
普段は忘れてくれていい、僕の存在を。
君が輝くような朝日のなかへ飛び出していくのを
黙って見送ろけれど人生晴れの日ばかりじゃない。
雨の降る日はぼくのことを思い出しておくれ。
ぼくはいつだって君の傘だよ。
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by soranosanngo | 2011-08-04 16:20 | ツイッター小説 | Comments(0)