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ミシン

今放映中の朝ドラ「カーネーション」の主役はうまいなあと思う。
彼女は室生犀星原作のドラマ「火の魚」で、病気になってしまう編集者の役で出演していたが
その時も、うまいなあと思った。

「カーネーション」に古めかしい骨董品みたいに美しいミシンが出てくる。
私が小さい頃、家にあったミシンにどこか似ている。流線型のボディに、手回しの車、糸などを入れておく引き出しの下には鉄の踏み板がついていた。踏み板を踏むとベルトで連動している車が動くのだ。
今と違ってそれはひとつの家具のようなどっしりとした存在感があった。

母はそのミシンで私や弟が小さい頃着る服を作ってくれた。
ハイビスカスの模様の(今思い出してもド派手!)夏のワンピースは一番のお気に入りだった。隣に住む従姉妹もおそろいで着ていたっけ。

採寸をし、(採寸しても大体において出来上がりは大きかった。すぐに大きくなる子供にワンシーズンだけの洋服とならないよう、母親の経済的な知恵だったのだろう)
デザインを決めたら、型紙を取り(それはデパートなどの包装紙であることが多かった)裁断する。

このとき使用するハサミは布裁ち専用であって、これで紙を切ろうものなら、「布が切れなくなる!」とえらく怒られた。
糸切り専用のかわいいハサミや指抜き、チャコペンシルごちゃごちゃとした、裁縫道具の中を見るのはとても楽しかった。

そういえば、ボタン専用の引き出しがあって、色とりどりのボタンが所狭しと入っていたが、それでおはじきをして遊んだものだった。あのボタン達は、洋服を捨てる時、ボタンを取っておいたものだったに違いない。

白い光沢の貝ボタンはお姫さま、モスグリーンのつやつやした大玉の飾りボタンは女王さま、ピカピカ光る金色のボタンは王様、お気に入りのボタンを種類ごとに集めては並べるのも楽しかったっけ。

痛い思い出としては、ミシンの針を手のひらに突き刺してしまったこと。幸い、3歳頃だったので、記憶にないのだけど。

怖くて、今となっては笑えるのが、火事にまつわる思い出。道路を挟んで向かいの家が火事になった時母は一人で重たく大きなミシンを家から運んだ。幸い類焼はまぬがれ、朝になり家の横にあった蜜柑畑の中にぽつんとミシンが一人佇んでいた。まるで一人でここまで逃げてきたようで、私はくすりと笑った。

現在、我が家にもミシンはあるがコンパクトで片手でも持ち上げられるほどの軽さ。ほぼ今はクローゼットの片隅で眠っている。
子供が小さい時はそれで幼稚園の通園バックやらを縫ったものだ。よく見るとアラがいっぱいなのだが、それは今でも現役で小学校の体操服や上履きなどを運んでくれている。

余談だが、嶽本野ばらさんの短篇集「ミシン」は純粋で切ない。好きな作品。そういえばミシンの仕事も切ないくらいに純粋だなあ。
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by soranosanngo | 2011-10-25 09:25 | 珊瑚の気まま日記 | Comments(4)

覆水盆に帰らず

この言葉が頭をよぎる時は、大抵良くないことが起きている。
言葉通り、手元が狂い、グラスの飲み物をこぼす。こぼすだけならまだしも、買ったばかりのブラウスにシミをこさえ、辺り一面コーヒーの海になり、それらはテーブルの下に滴り落ちて絨毯にシミを作る。液体というのは、一度自由になったら、悪意を持つんじゃないかと思うほど。

肉じゃがを作っている時、その鍋に砂糖と間違えて塩を入れてしまったり、素麺のつけ汁を作ろうとだし醤油だと思っていたら、ただの醤油だったり。
主婦になってから、「覆水盆に帰らず」はキッチンでつぶやくことが多くなった。

"It's no use crying over spilt milk."(こぼしたミルクを嘆いても無駄)と英語で同じような諺があるくらいだから。
そんな時、猫がいたら、こぼしたミルクも無駄にはならないだろうけど(笑い)

もとは中国の故事にちなんでいて、離婚した夫婦に復縁はない、ということらしいけど、離婚して世の中には同じ人とまた結婚するツワモノカップルもいるらしい。
それも2度といわず、3、4度と。

なんと不思議なことかと思う。
元の場所に戻る意志ある水が存在するのだろうか。
それともこぼしたミルクを飲んでくれて、全てなかったことにしてくれる魔法の猫を飼っているとか?
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by soranosanngo | 2011-10-06 13:38 | 珊瑚の気まま日記 | Comments(0)

尖塔のYURIKAGO

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STAR DUST素材館さまhttp://lunar.littlestar.jp/stardust/index.htmlよりいただいた画像です

≪登場人物≫
 マダム(中年女)
 ルカ(少年)
 ホワイトスノウ夫妻(金持ちで上品そうな身なり)
 若い女
 赤ん坊(声のみ)

≪第一幕≫

※舞台はうす暗い。下手に石を積んだ壁。壁には横1m縦30cmっほどの上下閉開式の木の扉が一つ付いている。
※扉の上には「YURIKAGO」の文字。

「ザザーザザー」(波の音)

※上手から若い女が歩いてくる。顔を隠すように頭からすっぽり白い面紗(ヴェール)で包まれている。両腕にはおくるみにしっかりと巻かれた赤子を抱いている。

※木の扉の前に来ると、おもむろに扉を引き上げ、赤子をその中に入れて、扉を閉める。
そしてそのまま二、三歩あとずさると、一瞬間を置いてから、背をむけ、元来た道を走って帰る。

※暗転


≪第二幕≫
※塔の内部。

※中央に螺旋階段がある。上手に4人掛けのテーブルセット。中年の女(マダム)がひとり座ってソロバンをはじいている。下手にベビーベッドが5つ並んでいる。少年が舞台中央よりのベッドに赤ん坊を寝かせているところ。

マダム:あたしは、この尖塔のYURIKAGOの女主人。生業は、赤子斡旋業さ。元手はタダのぼろもうけ。

ルカ:また、そんなことおっしゃって。人権擁護団体からクレームがきますよ。

マダム:何言ってんのさ。捨てられた命を欲しいとおっしゃる人にお譲りする、感謝されこそすれ、クレームを言われる筋合いじゃないよ

ルカ:でもねえ、この間も、この塔に取り付けられているゆりかごが捨て子を助長するんじゃないか、いったいモラルはどうなっているんだって、電話があったんです。

マダム:へっモラルだって? そんなものがもう通用する世の中でないってこと、わかってないのかね。ここまで捨てに来る母親はまだいいほうだと思わなくちゃ。子供を殺してしまう母親よりかはね。ルカ、おまえだってそう思うだろう。おまえだって、このYURIKAGOに捨てられていたんだからさ。

ルカ:そうですね、たぶん、いや、きっと。ぼくは幸せだったでしょうね。マダムに育ててもらって、感謝してます。

※ルカ、深々とお辞儀する。

マダム:面とむかって言われると照れるじゃないか。ほんとはね、あんたを引き取って育てたいって人が現れなかっただけなんだよ。

ルカ:それはそうでしょう。何をすき好んで小指がない赤ん坊を育てたいって奇特な人がいるでしょう。

マダム:ひがんでんのかい?売れ残ったから

ルカ:いいえ、ちっとも。

マダム:じゃあ、なんでいつも手袋してるのさ

ルカ:五本の指がそろってるマダムには言ってもわからないことです

マダム:やっぱり、ひがんでんじゃないか。

ルカ:ひがんでないですってば。

マダム:ひがんでる!

ルカ:ひがんでません!

マダム:ひがんでる!

ルカ:ひがんでません!

マダム:ひがんでません!

ルカ:ひがんでます!あっ

マダム:あはははは。まだまだ修行が足りないね、おまえは。

※突然、赤ん坊が泣き出す。


マダム:おむつじゃないのか

ルカ:はいはい、今行きまちゅよ。

※手際よくおむつを変えるルカ。

マダム:ある意味ここに来るのは命がけなんだ。この塔が立っている島の周りは渦が激しく舟は使えない。干潮時、海が割れ、現れた一本の道を徒歩で来るしかないのさ。

ルカ:もたもたしていたら、すぐ潮が満ちて波に飲まれますしね。

マダム:この塔にYURIKAGOがなかったころ、ここはただの教会だったのさ。そのときにも、ここへ来る殉教者が大勢死んだそうだ。

※マダム、またソロバンの玉をはじきだす。パチパチと音が響く。

マダム:あんたがいてくれてほんとに良かったよ。あたし一人じゃ手が回らない。この塔の維持費だって、ばかにならないんだから。

ルカ:育ててもらったせめても御恩返しです。

マダム:いつまでもここにいてあたしを手伝っておくれね。

ルカ:いつまでも、というのはお約束はできかねます

マダム:どうしてさ、ここにいれば、食べていくには困らないのに。この世知辛いご時世に小指のない、学のない、ないないづくしのあんたを誰が雇ってくれるというんだ。

※マダム、煙草に火をつけ、ふーと息をはく。

ルカ:マダム、そろそろ今日里親面談の方が見えます。名前はホワイトスノウ夫妻とおっしゃいます。

マダム:そうだったね。お見えになったら、こちらにお通ししておくれ。

※暗転



※テーブルに上品な身なりのホワイトスノウ夫妻が並んで座っている。その向かいにマダムとルカ。

「ホホホホ」(笑い声)

※なごやかに談笑が進んでいる様子。

マダム:お話はよくわかりました。お子様がお出来にならないので、実子として赤ん坊を一人欲しいということですね。

ホワイトスノウ夫:はい。どうぞよろしくお願いします。

ホワイトスノウ妻:実の子としてきっとかわいがりますから。

マダム:わかりました。面談の結果は追ってお知らせいたします。さ、どうぞ。

マダム、ホワイトスノウ夫のコートを手にし、背中にかけるやる。

ルカ:そろそろおかえりにならないと。

マダム:今日はこんな不便なところまでお越しいただきまして、ありがとうございました。

ホワイトスノウ妻:一日に一度干潮の時にだけ現れる道を通ることでしかこの塔にはこれませんのね。ロマンチックですわ。

マダム:古くは巡礼の道、と呼ばれておりました。さ、早くなさって。潮が満ちてきたら、波に飲まれて帰れなくなりますわ。

※ホワイトスノウ夫妻、帰っていく。


マダム:ルカ、塩持ってきな。

ルカ:塩ですか?(けげんな顔)……はい、どうぞ。

※マダム、塩の入ったつぼを受け取り今しがた閉じられた扉に向かって塩を撒く。

ルカ:いい人そうでしたね。合格ですか?

マダム:ばか! お前の鼻は飾り物か。あの夫妻からは血の臭いがぷんぷんした。デビルの手先だね、あれは。

ルカ:えっ。二人とも優しそうな顔をしていたのに。

マダム:まだまだ社会勉強が足りないね。まあ、こんな狭い世界しか知らないから、無理もないか。悪人ほど善人の仮面が似合うもんなんだよ。これが証拠さ。

マダム、ポケットから何かを取り出し、それをルカに渡す。

ルカ:ひえっ。こ、これって。

マダム:人の小指みたいだねえ。さっきホワイトスノウの夫のコートのポケットに入っていたのさ。ルカ、おまえにあげるよ。

ルカ:一本だけですか? 二本あったら完璧だったのに。

マダム:贅沢いうんじゃないよ。片手だけだってこれで五本指がそろうじゃないか。

ルカ、右手の手袋を脱いでその小指をつけてみる

ルカ:この小指、ぴったりだ。嬉しいです。小指があれば……。

マダム:小指があれば?

ルカ:指きりげんまん出来る! 夢だったんです。

マダム:はあ? 指きりげんまんだって? そんなの薬指だってできるんじゃないのか。

ルカ:いいえ! 薬指じゃいけません。指きりげんまんは小指じゃなきゃ。断固として!

マダム:ああ、もうわかったよ。好きにしたらいいよ。変なところ、頑固なんだから。あいつら、ホワイトスノウ、じゃなくてとんだブラックスノウだったね。

ルカ:じゃあ、不合格ですね。

マダム:当たり前じゃないか。こんなにかわいい赤子を臓器売買の道具になんかさせないよ。


※マダム、ベビーベッドに歩み寄り、赤子を抱き上げ頬ずりする。とたんに赤ん坊は火の付いたように泣き出す。

ルカ:何やってるんですか。相変わらず抱き方が下手なんだから。ちょっとかしてください。

※ルカが赤ん坊を抱くと泣き声が止む。

マダム:やれやれ、ソロバンはじくのは得意なんだけどねえ。ルカ、あんたは赤子の扱いはピカいちだねえ。コツを教えておくれよ。

ルカ:コツなんか別にありませんよ。

マダム:それじゃ、あたしが困るんだよ。あんたがいなくなったら、世話するのはあたしなんだから。

ルカ:いなくなったら、って?

マダム:外の世界を見てみたいんだろう。だったら行ってくるといい。でもね、ここが恋しくなったら、いつでも帰ってくるんだよ、ルカ。ほれ、指貸しな。

※指きりをする二人。

ルカ:初めての指きりの相手がマダムとは。

マダム:なんか文句あるっての?

ルカ:光栄でございます。


マダム:ところでその新入りの赤子の額、よく見てごらん。

ルカ:額ですか? うん? 何やら真ん中がまあるく盛り上がってますね。

マダム:それは眼だよ。まだ開いてないけどさ。その子はみっつの眼を持つ子さ。

ルカ:ひとつ多いですね。

マダム:少ないより、いくらかましだろう。

ルカ:そうでしょうか。

マダム:やっぱりひがんでる。

ルカ:しつこいですね。ひがんでないです。

マダム:また売れ残ったら、あんたの後釜にするとしよう。

ルカ:みっつめの瞳が開く時、果たしてそこに何を映すのでしょうね。

マダム:さあね。今より多少良くなっている世の中だといいけど。

ルカ:祈りましょう。

マダム:あたしはいつも祈ってるさ。祈るたんびにこの塔のてっぺんにある細いアンテナが伸びていく。天に届くには、まだまだだがね。

※暗転

※稲光が一筋、光る。ちょっと遅れて雷の音が響く。

   完
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by soranosanngo | 2011-10-04 13:29 | 尖塔のYURIKAGO(戯曲) | Comments(4)