月と王国

ある満月の晩、女友達が私の家にやってきた。シャンパンを片手に。何かのお祝い? と尋ねたら「まあ、そんなようなもの」とほほ笑んだ。酔っぱらうと虚言癖のある彼女は「やっとわかったの。わたしは王女さまだったの」と言った。「さて、もう寝る時間よ」といつものように私は取り合わなかった。

ほんとのところ彼女が友達なのかというのはまったくもって疑わしい。彼女の住所や電話番号を私は知らないし知りたいとも思わない。(もっとも友達の定義というものを私は正しくは知らなかった)彼女は平然と人の彼氏さえ盗ってしまうことのできる女なのだ。彼女のルールによると、それは罪ではないらしい。
それでいて何年か後、ちょうどいい具合に過去が薄まった時に、まるでそのことがなかったように私の前に現れるのだ。

朝起きて昨晩は一睡もできなかったと彼女が言う。まるでその不眠の原因が私のせいだといわんばかりの口調で。何かとても寝心地が悪かったの、と。お客様布団まで出してあげたというのに。

彼女がピンクのキャリーバックをがらがらとひきずりながら出て行ったあと、敷布団の下から一枚の紙切れが出てきた。それは私がいつか書いて、書いたことさえ忘れていた詩のかけらだった。
 孤独。
それはとてもうすい、のしいかのように成り果てた孤独だった。見方を変えれば、一枚の青い羽だった。本体が飛び去ったあと残されたもの。
昨晩彼女はこんな薄っぺらいものの存在を、その背中であたかも固い石であるかのように感じ取り、結果眠れなかったのだと知る。
彼女はもしかしたらほんとうに王女さまなのかもしれない。失われたどこかの国の。

或いは月の血筋の。

安眠できる寝床に、王女さまがたどりつく日は来るのだろうか。



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Commented by tobetonbi at 2018-09-11 19:22
この女友達、かぐや姫の末裔でしょうね。
かの姫は確か、人間には理解できな天上界の罪を犯し、浅ましき地上に追放された存在でしたよね。
でも、かぐやさんが子孫を残した話はない。

しかし、言い寄ってくる皆を振り続けたことになってますが、ひそかに誰かと情を通じ、産み落とした子がいたのでしょう。
情を通じた相手はだれか?彼女、天に帰るために羽衣を着る前に、翁に対して詠んでいます。
「いまはとて 天の羽衣 着る時ぞ 君をあはれと おもひいでぬる」
羽衣を着ると地上での思い=君をあわれ、が消えるというのです。
つまり、翁への思いが消えることを惜しむ歌。
かぐやさんと情を通じていたのは翁。翁はただれた関係を清算したくていろんな男を紹介しますがだめだった。
天皇からの求愛だって断るほど、かぐやさん翁にメロメロ。
当時翁は70歳だ?それがどうかしましたか。男は大丈夫です。能力あります(笑)

ともあれ子が生まれた。そして浅ましき地に生まれた子が罪を受け継いでいくのです。
罪を子に引き渡したかぐやさんには天上からの迎えが来た。
でもその子は、自分の出生の秘密を知らない。知らないが月夜にはなにか懐かしく切ない。

ながながと妄想、失礼しました。でも満月の夜の女は、妄想を誘うのです。
Commented by soranosanngo at 2018-09-12 10:32
妄想コメントありがとうございます。笑
日本最古のSF、竹取物語の新説ですね!
いにしえから人は満月を見ていろいろと想ってきたのでしょうね。
そう考えると社会のありようが変わっても、人の心というものはあまり変わってはないのかなと思います。
by soranosanngo | 2013-09-15 14:53 | モノガタリ詩 | Comments(2)