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この短歌が好き♪ 笹井宏之さんのまなざし

  セーターにふゆの嵐を編み込んで君はひとりの夜を耐へてをり(笹井宏之)

 結句の「夜」を最初、「よる」と読んだら、おさまりが悪かった。それならば、「て」を取って「耐えをり」にすればいいのでは? と不遜な事を考える。しかしそうすると、現在進行形という景色が失われてしまう気がする。それではこの作品の持つ共感性が失われてしまうだろう。
 ああ、そうか、「よる」ではなくて、これは「よ」と読ませるのだ! そして、ふたたび声に出してとなえてみる。すると「よ」が「世」に変わった。そんな私だけの答えにたどりつく。

 だから、うたって面白い。
 
 この作品のまなざしが好き。「ひとりの夜」つまりふゆの嵐さえも孤独に比べたらなんのことはなくて、編み込むモノが尽きれば嵐さえも編み込み、
 そんな寄る辺のない時間を過ごした「君」を、
 もしかしたら今、そうやって過ごしている君を、
 遠くでみつめるようなよりそうような作者のまなざしが、とても好き。
 作者はおそらくそんな孤独というものをすでに知っていて、知っているからこそ、またはその渦中にいて、渦中にいるからこそ、セーターの代わりに、うたを編んでいるのだろうと想像する。
 
 うた、というものは、作者の命がなくなってなお、人に心がある限り、命ながらえるものであるなあとしみじみと思う。

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↑サン・ピエトロ大聖堂の最上階で買った壁掛け
by soranosanngo | 2015-02-26 08:58 | 読書ノート | Comments(0)