「しずく」西加奈子

「ランドセル」「灰皿」「木蓮」「影」「しずく」「シャワーキャップ」6篇から成る短編集。

 どれも日常のあれこれを描きながら、きゅっと胸が切なくなるようなお話。あっというような仕掛けや驚きのようなものはなく、いや、ないからこそのリアリティがあると思った。

 一番好きなのは「木蓮」。主人公の正直な腹黒さ(といってもかわいいのだが)がとてもかわいい。誰かに(それが恋人であればなおさら)好かれたいと思えば、ちょっと無理してしまうのには私も心当たりがある。けれどそれを積み重ねていると、いつか限界が来る。いいひとぶっていても、実はそんな人じゃないのとカミングアウトしてしまいたくなる。(わかる、わかるー)
 恋人の子ども(離婚して元妻に引き取られている子)を訳あって、一日預かることになってしまった主人公。
 『獲物を取り逃がしたうみねこのような、苦々しい顔をしている』子ども。ただでさえ子どもが嫌いな主人公にとって、その子の子どもらしさ(相手の気持ちなんか考えない、思ったことはみんな言ってしまう、素直な残酷さ)は、ムカつくばかり。

 だけど、主人公は思い当たる。かつて自分も子どもだったのだ。非力で、弱く、大人が思う以上にいろんなことを考えていたってことを。

 木蓮は好きな花のひとつ。遠くからでも、あっ木蓮だとわかる、素朴で飾り気のない、それでいて存在感のある花のあり方がいい。樹になる果実のようだ。

 表題にもなっている「しずく」は2匹の猫目線がとても自然で、かわいく、悲しい場面でないのになぜか涙が出てしまうような切なさがある。
「のおおおお」「だふうううう」二匹は何かとけんかして殴り合う。そうして水道の蛇口のしずくを直接なめるのだ。二匹は別れてしまってからも、そうやって相手のことを想い出すのだろう。

 すべりおちようとしている水の一瞬が小さな私を映すよ、しずく

 西加奈子さんの小説は数冊読んだけど、これが一番好きかもしれない。2015.4月、読了。
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by soranosanngo | 2015-04-09 14:25 | 読書ノート | Comments(0)