読書感想「火花」又吉直樹

2015年芥川賞受賞作品。遅ればせながら読んだ。
この本はお笑い芸人である主人公とその先輩の悲喜こもごもを描いた小説。

笑うとちょっと幸せな気持ちになる。たぶん心にいい作用があるのではないかと思うし、笑うということが健康法のひとつであるとどこかで聞いたこともある。

人を笑わせるということを職業にするって大変なことなんだなあと思う。
「面白いでしょ」と押し付けられれば、たぶん私は笑えない。
この本の後半に出てくるお笑いの会話文の一幕があるのだが、ここは本当に面白く、そして泣けた。
ここにたどりつくまでのいろいろな想いがまさに火花を散らしているように感じた。

テレビに出ている若手芸人と呼ばれる人たちが一年後まだ活躍している確率はそんなに高くないだろうと想像する。

「――ずっと笑わせてきたわけや。それはとてつもない能力を身につけたということやで。ボクサーのパンチと一緒やで。ただし芸人のパンチは殴れば殴るほど人を幸せに出来るねん」(文中より抜き書き)

 絶妙な比喩に深くうなずいてしまった。笑いの火花、幸せな火花。

「同世代で売れるのは一握りかもしれへん。でも周りと比較されて独自のものを生み出したり、淘汰されたりされるわけやろ。この壮大な大会には勝ち負けがちゃんとある。だから面白いねん。でもな淘汰された奴等の存在って、絶対に無駄じゃないねん」(文中より抜き書き)

お笑いの世界だけではなく、普遍性を含んだ言葉だなあと思った。頂点を目指し頑張っている人の多くはその頂点にたどりつくことは難しい。けれどその頂点は点で出来ているわけではなく、裾野の広がった三角形で出来ているのだ。
また、人より屈折していて、不器用にしか生きられない先輩のそんな言葉が胸を打ち、そこに人生の無情を感じつつも、温かい。
学校で、社会で、人はおのれの不器用さを(多少の違いや自覚するかしないかはあるとは思うけど)矯正することを葛藤しながらも学び、人間社会に順応してゆく。
だから大人になってもいまだ「純正」な不器用さを手放せない先輩のことを、愛おしく思えるのかもしれない。
そしていつも周りになじめずにいるような彼のことを、まっこうから肯定しているこの小説をも愛おしい。


先輩と後輩という立場が、読み進めていくうちに、距離感が縮まっていき、最後は逆転するようなラストもどこか温かく、幸せな気持ちになった。読んでよかったと思った。

芥川賞とか純文学というと難解なイメージを持ってしまうが、この本はすらすら読めて面白かった。
ちなみに高校生の娘も面白かったと言っていた。
じゃろー! じゃろー!!(広島弁・そうでしょうの意味)
たいてい私が勧めた本を娘は面白くないと言うので、久しぶりに親子の感想が一致したのも嬉しい。
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by soranosanngo | 2016-06-16 15:18 | 読書ノート | Comments(0)