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詩「転写する夜」

いちにちのおわりに
ひとつ
まるで生きた証のような
拇印を押す
夜の儀式

それは
ひごとうすくなる
スタンプのインクは補充されないから

命の在り処のように
月光にかざせば
浮き上がるうずまく模様
私は誰と契約したのだろうか

過去からの手紙のように
永遠に変わらないから
ただ、なつかしい
by soranosanngo | 2016-05-31 08:34 | | Comments(0)

腕が棒になる
それとも棒を腕としていたのか
いずれにしても
棒であるから
(気づいてしまったから)
もう水をかくことが出来ない

かくことを
あきらめてしまえば
あっけなく浮く
人はそういうふうに
出来ていると
教えてくれたのは
誰だったか
おそらくは
優しい人ではなかったか
優しい人の輪郭は
光にふちどられていて
たどってゆく記憶の淵から消えかかっている

いずれにしても
空があまりにまぶしいので
眼をあけていられない
深い深い海を背にして
あきらめた先にも
あきらめがある
そうして
波に進路をゆだね
明日
知らない島に打ち上げられる
人形になろう、とおもいます
by soranosanngo | 2016-05-27 14:13 | | Comments(0)

詩「ミニアチュール」

短く切った髪の毛の先端が
新しい雨の匂いを吸って
くしゃみした

雨という
言葉を
わたしがまだ知らなかったころ
雨は
ときおりやってくる子で
だから今でも
傘はささない

虹は
美しいさようなら
by soranosanngo | 2016-05-25 08:14 | | Comments(0)

詩「甘夏の季節に」

甘夏を手にとると
私はどこかにたちかえってゆく

かごいっぱいに
甘夏を収穫した父の
労働という名前の匂いは
熱を帯びたひなたの石のようだった
今、冬をむかえた石は
すっかり冷えてしまったけれど
甘夏を剥くたびに
私は
食べきれないほどの
酸っぱさの中にほのかな甘みのある
光の果実を前にして
よろこぶ少女にたちかえってゆく
実際に
今でもそれは
食べつくせないほど
実り続けている
この初夏の空のむこうに
by soranosanngo | 2016-05-22 08:03 | | Comments(0)

詩「星ノ船」

きのうの夜
わたしが乗りそこねてしまった
船は
いまごろ
どのあたりを航海しているのだろうか

闇をこいで渡ってゆく
静かな動力を取り付けた乗り物に
選ばれなかった
理由をさがしてみる

けれど
たいていの理由は
糸をたぐりよせる先で
たよりなく消えてしまう
あるいはそれは
ひとつぶの砂のように
風がふけば
この指から吹き飛び
ゆくえは追えない

そもそも選ばれなかったのでなくて
わたしが選ばなかっただけのことかもしれなくて

そうして
あちらこちらでゆれている
葉の上の朝露が
星々のなれのはてだと
やっと気づく
by soranosanngo | 2016-05-19 08:19 | | Comments(0)

詩「木香薔薇」

風と雨が去ったあと
緑は急に色を濃くする

やはり木香薔薇はほぼ散っていて
跡形は
それが昨日まで
可憐な白い花であったことが
嘘のように
煉瓦をしきつめた小路に同化し
色あせている

嘘、であったのかもしれない

夢から醒めたはずなのに
そこはまだ夢の途中であるかのように
五月の光は急にまぶしさを増す
by soranosanngo | 2016-05-17 13:24 | | Comments(0)

詩「一番電車を待つ間」

私が詩を書こうと思ったとき
鉛筆と紙はすでに失われていた
私の詩は
書かれたものではなく
キーボードから産まれたものだ

しんと静まり返った
とある夜
白いキーボードの配列が動き出す
慣れ親しんだ手順を
私は捨てなくてはならないだろう

それでも
詩は
からだの一番奥底にあって
ひそかに湧いてくる

こうして
一番電車を待つホームにいて
まだうすぐらい手探りの
そう、闇ともよべる時間の中で
やがて
線路の向こうから
光降る朝が来ることを信じているように
私はてのひらで
すくい、つづける
水のような詩を
詩のような水を

喪失と再生は
背中合わせに在るものでなく
球体のようにまじりながら
文字にするための
透明のエンターキイをさがしあっている
by soranosanngo | 2016-05-06 08:13 | | Comments(0)

詩「解凍」

五月の光に
解凍されてゆくのは
身体だろうか
心だろうか
その両方なのだろうか
いずれにしても
凍ったままではいられないらしい
廃墟のまま朽ちてゆくことは叶わないらしい
静かなる臨界
ゆっくりと水を目指し
あらわになってゆく
よこしまな骨たち

生命に課せられた
それを呪いと呼ぶにしては
まぶしすぎる
by soranosanngo | 2016-05-01 12:24 | | Comments(0)